【まちなかの散歩:105】子や孫のために残すこと(2017年5月)

 過日、ヘミングウェイの『誰がために鐘が鳴る』をTVで観る。「スペイン内戦を舞台にゲリラ活動に義勇兵として参加し、政府の軍事輸送を阻止するため鉄橋の爆破を実行するアメリカ人ロバート・ジョーダン(ゲーリー・クーパー)と彼に協力するゲリラ隊にいるファッシストに両親を殺された美しい娘マリア(イングリッド・バークマン)との悲恋ドラマ」である。ロバートは、母国アメリカやヨーロッパの“民主主義”を守るために戦いに参加した。だが、自分の任務である橋梁を爆破した時に瀕死の重傷を負って、恋したマリアを敵から守るため戦って死んでいく。この戦いには多くの国から個人の資格で義勇兵となり市民と戦っている。仏のアンドレ=マルロー、米のヘミングウェイ、英のジョージ=オーウェルなどの著名な作家も参加し、多くのルポルタージュを残した。ピカソは抗議を込めて大作『ゲルニカ』を描いたことでも有名である。
 そして熊本大地震から早や1年が経過した。あの通水風景写真で有名な通潤橋も被害を受けている。この通水用石橋は150年以上前に、水利が非常に悪く毎日の飲み水にも事欠く貧しい隣地区のために深い谷を越えて農業用水を送るために計画された。橋の依頼人が大名や商人ではなく、日々の生活に困っていた農民だった。上品な長崎の橋とは異なり、手の込んだ欄干もない自然石の乱積みという粗野な石橋である。その姿から農民の願いを叶えようと結集した肥後石工たちの心意気が読み取れる。この建設を指揮した地域リーダーである惣庄屋布田保之助は、失敗の際の切腹覚悟の白装束で通水の竣工式に臨んでいる。村々を足で歩いて学んだ逆サイフォンの仕組みを採用し、地元からの労働力・資金調達に加え、民衆の勤労意欲を沸かせた賢明な財政政策を採用した藩からの財政的支援を受け、100haに及ぶ不毛の台地を田畑として灌漑し、貧しくて身売りを余儀なくされていた隣村を救ったという。しかも、その技術は江戸の万世橋・浅草橋等の架橋として広められている。まさに、その美しい景観もさることながら、その背景にある地域社会におけるリーダーの優れた企画・強い意思、生活環境改善の技術・仕組み、住民の献金と労力奉仕という地域社会での合意、藩の財政支援を説得する理論武装と藩の理解、という総力戦であり、さらにそのノウハウ・技術の普及・継承・伝播がある。加えて自然エネルギーのみを用いることによって、環境を損なわない「持続可能な社会」の仕組みを組み込んでいることに今日の我々(とりわけ自治体の為政者や職員)が学ぶことは多い。
 徳育として『我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つこと』をめざすならば、こういう事実こそを子や孫たちに伝えて行きたいものである。この課題を「どう解く」かがカギである。

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.195に掲載)


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