【まちなかの散歩:96】騙されたあなたにも責任がある(2016年8月)

 夏休みを前に書斎の整理をしていて読みかけの本を見つける。『騙されたあなたにも責任がある~脱原発の真実~』。原子力の平和利用を志しながら原発の危うさに気づき、その危険性を訴え続けて、大学では最も地位の低い助教(助手)に最後まで留め置かれ、昨春京都大学原子炉実験所を退官した硬骨の研究者・小出裕章氏が書いた原発告発本である。書名に惹かれて改めて手にする。その前書きに、300頁に及ぶアメリカの原子力規制委員会が公表した内部文書を引用していくつかの事実を述べながら、「「原発は安全」と騙した側の責任は大きいと思います。しかし、“騙された側にも責任がある”ことを理解して欲しいのです。」と結んでいる。確かに最近になって、事故発生時にはメルトダウンが起こっていたと、東電もこの頃になって認めている。
 EUからの離脱を唱えてリーダーシップを取った英国の指導者達が、驚くことに国民投票で勝利を手にした途端に次々と舞台から降りていく。国民は導かれた「ストリー」の欺瞞に再投票を求める署名を始める。騙された!ミスリードだと。“冷静な紳士の国”と子どもの頃に刻み付けられたあの英国が、・・・なんてこった。
 かつて酒席で、集団的自衛権推進派の法律専門家が、「君は本当に条文を読んで反対しているのか」と反対論者に詰めっていたが、「それでは賛成を主張する面々も条文を読んで賛成しているのか」と、酔った頭ながらに考えたが反論するには呂律が回らなくなっていた。どういうこった。
 2/3を支持した投票者が、憲法を改正すべきだと考えて投票したのだろうか。また憲法改正を声高にする主張と改正に関心を持つという人々の意見は、メディアでは紹介されることがほとんどない現政権が準備する改正草案どおりなのだろうか?特定秘密保護法、集団的自衛権、原発政策、保育所不足、TPP・農業・医療等も含め安全・安心のための「岩盤規制」を効率主義による破壊、権力によるメディアに対する陰陽の圧力、これほどまでに個々の生活が壊され、あるいは壊されそうになっても「新しい見解」で「道半ば」と諦めない。
 戦後アメリカは日本占領を3S政策:screen(映画・テレビ)、sport(スポーツ)、sex(性産業)を用いて大衆の関心を政治に向けさせないようにする世論操作を目指したと言われているが、今では、これらを通じて政治から目をそらせるのではなく、政治課題の本質から逸れた焦点に関心を集中させようとしている感がする。政治ニュースと芸能ニュースが混在し、青春の時間のほとんどを3Sで過ごした有名人が仕切る情報番組はワイドショー化されて報道ニュースを見る習慣がないことが、ごく当たり前のように受け取られている。
 18歳以上の選挙権付与、大学での投票率の向上(投票場の増設、選挙方法の模擬実験)を報じ、改憲2/3の“危険性”を報じたが、政策の内容に踏み込んでの報道が極めて少なかった。それが、あの政治的“中立”か。
 沢山の優秀な国民の監視下で日本の無謀な戦争が、何故無抵抗に進められ止められなかったのか解らず近現代史を学ぼうとしたが、今やっと現実に進みつつ日本の姿、国民の姿勢をみて理解している。あぁ、政治、メディア、国民か、・・・。冒頭の本の傍らには『俺の苦言を聞け』(野村克也著 悟空出版)が横たわっていた。妻が覗き込んだ『騙されたあなたにも責任がある』の本タイトルに、「その言葉、私に言ってるの?」いえいえ、決して騙したつもりはないのだが、・・・。夏バテと選挙結果とこの言葉に私の頭と心は伸び切っている。

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.179に掲載)


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