【まちなかの散歩:82】国民に嘘をつく国家は滅びる(2015年6月)

 過日、久しぶりに出会った東京在住の知人が『昔、こんなことを言ってくれたよなぁ』とぽつりと言った。私にその記憶はないが、多分そう話したであろうと想像はできる。だが、彼がその言葉を受け止め、その後の生き方に影響を与えていたとは全く知らなかった。これは幸いにして良い方の話であるが、相手を傷つけておきながら気づかずに過ごしているケースは少なくない。とりわけ酒席の上での話は危険である。それは、発言者には知らされずに相手の心の底に傷となって深く沈んでいく。これまでの関係者には、手遅れだが猛反省である。これとは次元は違うが、世の中には知りたいことが隠され、あるいは誤魔化されて真実が覆い隠されたままになっていく場合も多い。
 この3月に元外務省アメリカ局長の吉野文六氏が96歳で亡くなった。1972年の沖縄返還時の日米交渉で密約があったと初めて認めた日本人当事者である。沖縄返還時の密約に関する情報漏えいに関与したとして外務省職員と毎日新聞の西山記者が逮捕されたが、もっぱら男女の関係のスキャンダルとして報じられ、本質的な密約の有無は世間の目から逸らされて有罪となった事件であった。この裁判で吉野氏を含む外務省幹部は密約の存在を否定した。2000年に米国公文書館から密約文書が見つかっても外務省は密約の存在を否定し続けた。2006年になって新聞記者が文書を入手して吉野氏に「B・Y」の署名を提示したことで、彼は真実を語る決心をした。外交官人生を終える際の出来事である。
 最近の出来事だが、NHKとTV朝日が、政府からの呼び出しで番組内容の「釈明」に出かけている。自民党情報通信戦略調査会がマスコミ報道に目を光らせていることが分かったが、権力者に辛口の発言をする評論家が段々と減り、TV局も報道番組を楽屋裏話番組に混ぜてニュースを報じ、袋叩きにあって新聞もTVも本当のことが伝えられていない。
 もう、怪しげな内容も混じるインターネット情報で真実を知るしかなくなってきたのか。ところが残念ながら、熟年者はパソコンをやらない、やれない。「メールはしている」と言っても携帯でしか出来ていない。インターネット検索での情報を知ることができない。スマホは小さくて文字が読めない。年金生活者には維持費が高くてたまらない。“闇米”を知らない、政治に無関心な世代と社会生活を共にしつつ、それでも営々と築きあげてきた戦後民主主義、地域民主主義の流れを逆流させたくない。であれば、かなり精神的にも金銭的にも苦痛だが、インターネットで真実を知ることも求められる。『熟年よ、パソコンを使いこなそうよ』と言いたいところだが、・・・。
 それにしても、“小さな政府が資本主義の本質”と言っていたと思いきや、ボーナスを上げろ、新幹線を買わせろと余計なお節介のために大きな政府(態度の大きな政府? 大きなお世話の政府?)となってはいないか? 逆に、世界中で頻発する地震や火山活動という市民・国民の安全と安心の政策はどうなっているのか。東北地方の震災復興資金を地元に負担させると復興担当大臣が言った。復興税をどこに注ぎ込んでいるのか、見えないことが多すぎる。『国民に嘘をつく国家は滅びる』・・・吉野文六氏の「遺言」である。

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.152に掲載)


※まちなかの散歩のバックナンバーはこちらをご覧ください。