【まちなかの散歩:68】自転車泥棒(2014年4月)

 春4月。新学年・新入生となって、自転車を買ってもらった子供も少なくないだろう。最近、知人から届いたメールの末尾に刺激的な文言があった。それは、自転車の絵文字とともに、『KEEP LEFT ・・・自転車は車両です、車道の左側を走りましょう(自転車安全利用五則抜粋)。』というものだった。

 今年の初めに、「銀輪の死角:自転車事故死、賠償4746万円」という記事があった(1月29日毎日新聞)。記事は続く。「自転車で歩行者を死傷させた人に高額な賠償を命じる判決が各地で相次いでいる。特に歩行者が歩道や路側帯など「保護される場所」にいた場合は自転車側に責任を100%としたり、歩行者側に過失があっても軽くしたりする判決が目立つ」と。昨年7月には、神戸地裁で9520万円の賠償命令が下された判決がある。

 2013年12月1日に自転車で道路右側の路側帯を通行することを禁止する改正道路交通法が施行された。自転車は道路交通法では「軽車両」とされ、原則として車道の左側を端によって通行し、車道や歩道と縁石や柵などで分けた車道がある場合は、そこを通らなければならない。歩道の通行は①標識で通行可能としている場合、②13歳未満か70歳以上の人や、障害者が乗る場合、③安全のためやむをえない場合、以外は車道よりの徐行が義務付けられている。今回の法改正で路側帯は道路右側の通行が禁じられた。 ところが、法が施行されて1年余、その効果はどうか?夜道の無灯火運転は論外だが、新聞を見ない、TVも見ない、小さな電子板にしか目が行かず、仲間内の情報だけしか関心を持たない若者に、この法改正をどう周知するのか?学校での教育が徹底されることも大いに期待するが、自転車だけに、“by school”だと言って学校にばかり任せておけない。ここで冒頭に述べたような個人やまちぐるみの日常的な啓発行為が意味を持ってくる。

 とはいえ、一方で、現状で車道に自転車を走らせては危険であることも事実である。今年1月の第71回の「豊中まちづくりフォーラム」で“都市の移動速度と安全性”について講演して下さった大阪大学の土井健司教授が提案される「車の市街地速度の30km制限」という発想は、金がかからない、大掛かりな施設が要らないという点で極めて安全なまちづくりの原点である。真剣に政治も行政も市民もこの提案を議論してみてはどうだろうか? 自転車が最も早い乗り物として街中を走る姿こそ、原発反対、公害反対、福祉社会、市民中心社会の実現に早道なのではないか。この点での合意形成が出来ない社会に多くの期待は出来ないといっては言い過ぎなのだろうか?

 伊映画『自転車泥棒』を切ない思いで観た青年が、今、歳を重ね、時折のほろ酔い気分を満喫しながら帰宅の歩道を歩きたいと願うのは、そんなに贅沢なことなのだろうか。

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.125に掲載)


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