【まちなかの散歩:103】トランプが切り札か(2017年3月)

 2月の朝の散歩途中のことである。豊高道の昌文堂書店で教科書販売の準備を目にする。春から豊中高校・梅花学園に新入生・新学年になって新しい教科書での授業を待つ生徒らを思い浮かべる。そして、この1年で目覚ましく成長してきた孫娘が、この春に小学校に上がることに思いを馳せる。
 小学校から大学までの教育に公私を問わず額の多少はあっても税金が投入されている。だが、それは私的な「投資」のためでなく、将来にわたって地域社会・国を支える経費であることは忘れられている。
 武田信玄のいう「人は城、人は石垣、人は堀」で人材育成・教育の重要性は今更言うまでもない。「義務教育はこれを無償とする」という憲法の理念をどう考えるか。「無償とは授業料は取らないだけ」という趣旨だとする最高裁判決をどう考えるのか。奨学金を「貸与」から「給付」する方向で政策が検討さられているとか。「教育」をどう位置付けるかの国民的議論が改めて必要なのではないか。
 トランプ米大統領の言説に世界は右往左往している。アメリカ・ファースト、トランプ第一と声高に主張し命令を発していて世界のほとんどのメディアがこれを批判し米司法も否定的な姿勢で臨んでいる。
 ところで、独善的で普遍的人類愛がないということで彼の言動が非難されているが、ここで自分たちの日常生活を振り返ってみたい。
 教育ママの我が子教育ファースト。運動会での場所取り・写真撮影、よその子供にも応援してやれよ。狭い道路での我が物顔で走り抜ける車ファースト。おいおい、この道はお前だけの税金で建設・維持されているのじゃないぞ。自転車ファースト。傍若無人に歩道を走る自転車。幼い子ども・車いす・杖をついた高齢者に怪我をさせてどうするの。エスカレーターの降り口で立ち止まり、通路で立ち話。電車内で脚を組むわ、姿勢を崩して通路に汚い靴投げ出すわ、優先座席を陣取るわ。ゲームに熱中する歩きスマホはとうとうポケモンゴーまで行きつく。添加物だらけの食品。金儲け第一、選挙第一、出世第一、・・・。我々の中の“トランプ現象”は今に始まったことでもなく、ずっと以前から徐々に広まっている。
 国内外の重要事項を報じずトランプ現象を放送するだけで“しめた”とばかり視聴率を上げ広告料を稼ぐ視聴率第一主義の放送界。情報が欲しい時・頼む時だけ連絡するが後は礼も報告もしない輩。
 建前ばかりで実質が伴わない“民主主義社会”世界に飽き足らない米国民が選んだのがトランプであり必要な改革を進めるためだといっても少し節操があっても良いのではないかとは思う。
 戦後育ちの世代を評して「自分さえ良ければ良い奴らだ、権利ばかり・自由を主張ばかりして義務を果たさない連中だ、利己主義だとかエゴイストだ」と非難され、それは「戦後教育のせいである」と言われ続けてきた。だが、戦後の教育がそんなに悪く、戦前の軍国主義教育が良かったのだろうか? 軍の「撤退」を「転進」と大本営が発表した事実を信じさせられた時代がそんなに良かったのだろうか。「戦後すぐにアメリカ民主主義教育が今日の自堕落な日本人をつくった。日本人の大和魂を骨抜きにした」と言われても、間違いなく他者への思いやりの精神は残っていた。アメリカだって熾烈な競争をゲームとして勝ち抜いた後は、その財産を社会に寄付し財団を設立している例が枚挙に暇がない。我々もトランプという他者への批判から謙虚に学びたいものである。
 さぁ、トランプならぬランドセルは、母方の祖父祖母が既に買ったとか。父方の我々は学習机を買ってやろうか。♪世界は二人のために♪ではなく、♪二人は世界のために♪ 育ってくれと祈りつつ。

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.191に掲載)


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