【まちなかの散歩:38】“何故?思考ジャパン”(2011年10月)

 秋10月。食欲の秋、文化の秋とともにスポーツの秋である。
県内からのレギュラー選手が一人もいなかったというチームを準優勝校に戴いた夏の高校野球。とはいえ、“目くそ鼻くそを笑う”の類の学校も多く、健闘をたたえたい。ここ豊中駅前が正真正銘の「高校野球発祥の地」であることは、既に本コラムで触れた。(本紙第7号2009年3月『高校野球発祥の地~豊中グラウンド~』)現在では、阪急豊中駅西側に「メモリアルパーク」として、わずかにその面影を残しているばかりであるが、その野球も今ではサッカー人気に圧されている。
 そして、女子サッカー・なでしこジャパンの世界一、『国民栄誉賞』フィーバーである。
 「未だ、現役ですから」と固辞したイチローの言葉にも増して、わが豊中市庄内に実家がある元阪急・福本豊の「貰ったら立ちションも出来ませんから」という類の弁が聞きたかったが、女子チームではそれも期待出来ないだろう。「週休(=蹴球)二日の勤務にして欲しい」というのも無理か?

 さて、今回の優勝で気になることがある。MVPや得点王の澤穂希主将、見事な足技で相手の得点を阻止したゴールキーパー海堀あゆみ選手のかげで、チームメイトも監督も今流行の素人コメンテーターならぬ専門家である解説者も触れない後半終了間際に退場覚悟で相手のプレイを止めた岩清水選手のことである。
 “反則が良くない”という道徳観を持ち込めば評価が別のものになるのかも知れないが、今回の歓迎振りは、ただただ“優勝した”からこそ評価されている。だとすれば、その遠因である、残り時間が殆ど無くなった状況で、体を張って相手の得点を阻止したプレイはチームにとっては大きな意味があるし、もっと高く評価されてもおかしくはないはずである。岩清水本人も試合後、敢えて反則を犯したことを認め、「いつも通りやっただけ」とあっけらかんと笑顔で言っているという。そんな意義は仲間内では当然に分っているはずである。

 かつてプロ野球界で犠牲バンドの名人として名を挙げた川合選手も華やかな投手として巨人に入団しながら、その後チームプレイとしての犠牲バンドに腕を磨いた。野手として転向後、物心ついた我が子の期待に応えてホームランを打ちたかった頃もあったという。滅私奉公も度が過ぎると危険であるが、チームメイト、スタッフに心を配り、他人を尊重し、敬意を払う精神を持つこと。この幸せは何処から来るのかという感謝の気持ち、また、この不合理は何故なのだろうかという想像力・思考をめぐらすこと。“何故?思考。ジャパン”である。
 叩かれるだけの首相と褒められるだけ褒められる主将の存在する現在にあって、“新しい公共”を築くためにも我々も殊勝(しゅしょう)さを忘れてはならないのではないか?

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.67に掲載)


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