【まちなかの散歩:50】まつりごと(2012年10月)

 秋10月。神無月。我々が“神無月(かんなづき)”と呼ぶ今月を、出雲の人々は“神在(かみあり)月(づき)”と呼ぶと知った時の感動を思い出す。幼い頃に見聞きした神話の世界が現実としてあるのだと…。
 そして今年2012年(平成24年)は、日本最古の歴史書「古事記」が編纂されてから1300年を迎えるという。100歳以上の長寿者数が554人で、高知県に次いで2位だったという島根県の広報ホームページを見ると次のように書かれている。
「古事記」は上・中・下巻の三巻から成っていますが、その上巻(かみつまき)は、日本のはじまりの物語。日本列島の成り立ちと国造りが語られ、国譲り、天孫降臨を経て、神武天皇誕生までの日本の「神話」が記されています。神々が織りなす日本のはじまりの物語。それは、壮大なスケールと躍動するダイナミズムにあふれ、物語として力強い魅力に満ちています。また、登場する神々も、とても大らかで喜怒哀楽に富んでおり、現代社会に生きる私たちを惹きつけてやみません。その日本神話の、重要な舞台が「しまね」です。 さすが長寿を誇る“国”である。
 そして、オオクニヌシ(大国主)がアマツカミ(天津神)に国譲りを行うに際し、その代償として贈った巨大な宮殿が起源とされるのが出雲大社。上古には96mもあったとか。2000年10月には中古に造られた48mの神殿の裏付けとされる心御柱が発見されて話題となった。
 恵比寿神を残された地域の留守神にして、神々が出雲に集まる旧暦10月10日は神迎祭が、11日~17日には神在祭(御忌祭)が行われるという。今日では、縁結びの神として若者達にもてはやされるが、当時の国造り、国譲りの神話がどのようなものだったか、現世のロマンを満喫した後にでも古代ロマンも味わってもみたいものである。安木節で有名な“ドジョウすくい”は、『青春の蹉跌』ならぬ、あちこちの山中でタタラ遺構が残るこの地方で豊富に採れた「砂鉄」をすくっている仕草だと言われれば納得がいく。連続テレビ小説『だんだん』で紹介されて話題となった一畑電鉄、悲話と夕日で涙ぐむ宍道湖、北方50km沖にある大相撲「隠岐の海」の出身地・隠岐の島の歴史と人々の営み・人情を思い、幼い頃からの教育の力をまざまざと思い知らされる緊張の「竹島」を考える場所でもある。

 “八百万(やおよろず)の神々”が出雲に集うこの月に、八百八橋の浪速のまちに住む者としては、メディアが論じる目前の利益・効率論議に惑わされず、国も地域もまつりごと(政治)が、国民が信託した権力・権限を暮らしの改善に、具体的にどう向けているのかを、しっかりと関心をもって監視したいものである。この神不在のどさくさに紛れて、民不在の方向に舵を切られてはなるまい。

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.90に掲載)


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