【若葉マークの車いす生活:39】可愛く耄碌したい!(2022年7月)

第36回で書いた歯の痛みは消え、ぐらつきもある程度回復した。施設の食事は柔らかい(でも、あの牛肉料理が、噛み切れなかったのは歯のせいではないぞ!)ので、入れ歯の問題は当面遠ざかった。しかし、週1回の出張歯科での歯の清掃を受けることにした。
その日、歯科衛生士は、コップの水と受け皿を渡しながら「うがいをしましょうねエ」と言う。この幼児言葉(と聞こえた)に一瞬ムカッときた。1週間前、この歯科診療で本人が無視されて、ゲンナリしたばかりだ。
考えてみれば、高齢者施設での診療では常用的な言葉遣いなのだろう。病院の診察で初対面の医師に同様のニュアンスで話されたこともある。若くして施設に入っているからには、認知機能に問題ありと見られても仕方がないのだ。
だが、言ってしまった!
「しましょうねエ、という言い方は、僕、大っ嫌いなんですが。」
瞬間、彼女の顔がこわばった。
苦笑いで済ましておけば良かったものを・・・。後の祭り。大人げない。歳を取って、“大人”も卒業したのか。後悔先立たず。
老人ホーム入居者の人柄には様々なタイプがある。温和な人、お喋り、寂しがりや、・・・。人間の集団だから、人の数だけ違いがあって当たり前なのだが。高齢の入居者は、抑制が弱くなり、元々の性格がより強く出てくるように思える。
そんな中で、攻撃性がやたら強いタイプがある。
ある行為を止められたことについて、職員に抗議している場面に出会った。言っていることは、一見理屈が通っているように聞こえるが、そもそも前提の行為が生活ルールとして問題のあるものだったのだ。職員が繰り返し説明しても理解しない。行為そのものの是非ではなく、自分に非があると扱われたこと、そのことが納得できないのだ。理屈っぽい分、見ていて可愛げがない。
“自分は可愛く耄碌したいものだ”とそっと呟く。
でも、歯科衛生士に嫌味を言ったり、そもそもこんなコラムを書くこと自体が、既に、“可愛くない”のだが。


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