【若葉マークの車いす生活:33】幽閉生活の被害妄想(2022年6月)

このコラムの執筆を中断している間に、介護付き有料老人ホームに入居した。これまでと異なる生活経験を綴ってみたい。
妻の難病が進行し、我が身も手術入院を重ねている。いずれ近いうちに老人ホームを探さねば、と話していた矢先、息子が近く長期海外赴任になるという。新生活は息子が日本に居る間に始めよう、と、全くのドタバタで年初に転居した。
当然といえば当然だが、老人ホームでの生活はこれまでと全く違う。
施設の側では、“夫婦共車いす生活であり、将来も考えると、介護スタッフが手厚く配置されているフロアが良いだろう、との考えで部屋を用意してくれた。
フロア毎で入居者の雰囲気が全く違うことは、後に知る。
そもそも入居者のほぼ全員が80歳代以上であり、90歳代や100歳の方とは会話のテンポからして違う。その中で、より手厚い介護スタッフの配置がなされているということは、それだけ認知症や寝たきりの方などが多いフロアということになる。
このような方々との身近な接触をこれまでは全く体験してこなかったので、“老人施設というのはこういうものか”と日々感じる。
追い打ちをかけて、新型コロナ禍の影響が凄かった。
入居前のガイダンスでは、外部からの面会は自由、外出も散歩も自由、食事が不足ならば、近所のスーパーで好きなものを買って来ればよい。車いすで近くの喫茶店の常連客となっている人もいますよ。最も今はコロナで外出禁止ですが、もう大丈夫でしょう・・・。なんて、説明だった。
ところがどっこい。1月の入居早々、新型コロナの波が再発!面会、外出は一切禁止。施設内での出張散髪、コンビニの出張販売なども停止。施設内の各種イベントも一切なし。他のフロアへの移動は一切禁止。1階ロビーでの日向ぼっこも禁止。
髪の毛は伸び放題の、実質、一部屋への幽閉生活が続くことになった。
5月、世間ではコロナを理由とする行動制限はすべて解除された。しかし、高齢者施設では、大阪府からの一片の通達で、面会、外出の禁止等は、そのまま継続された。
6月になって、ようやく施設の判断として、近くのスーパーでの短時間の買い物だけなら許可となった。面会は、リモート面会と称して、面会者は建物の外側に居て、ガラス越しに対面し,音声はネットの対話ソフトを使って、短時間に限定して行われている。
これだけ長期に隔離生活が続くと、入居者には、精神面、体力面で様々な悪影響が出てくる。食堂での会話にも、愚痴がどんどん増える。
それだけではない。スタッフの間でも、濃厚接触者だとして出勤禁止となる者が続発。勤務可能者が減ることで、入居者サービスは明らかに低下。労働強化のため体調を崩したり、退職する職員が続出した。一方、新規入居者の方は、より重度に変わる傾向に見える。
新参者の目にも、半年間で入居者を覆う雰囲気の変化が感じられた。
高齢者施設での感染危険性ということは一応理解しているつもりだ。しかし、疑問が湧く。ここまで長期に、世間から隔離し、閉じ込め生活を長期に続けさせることによる健康面への影響、介護従事者の負担増加、などの問題が、「やむを得ないね」で済まされてよいのだろうか?と。
どうせ姥捨て山だ。経済的には大した影響はないし、それで世間の問題となることもあるまい。それより、万一クラスターが発生すれば、責任を問われるし、コロナ無策がほじくり返される。臭いものに蓋だ。思考停止が最良だ!
責任逃れと自己利益の政治的思惑が渦巻いている!
そんな被害妄想に襲われる、新生活の始まりだった。


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