【まちなかの散歩:12】溜め(2009年8月)
太陽と月と雷が連れ立って旅に出て、日暮れて宿に泊まる。翌朝、雷が目を覚ますと、傍に寝ていたはずの太陽と月の姿が見えない。宿の主に尋ねると、既に出発した後とか。「いやはや、月日の発つ(経つ)のは早いなぁ」「で、雷様、あなた様は、いつのご出立でございますか?」に、「そうだなぁ、わしゃぁ、夕立にするわ」というオチの小咄を聞いたことがある。この話のように、かつては、ニョキニョキと盛り上がっていく入道雲による夕立とは、暑い日中を過ぎて夕方に降って涼気を提供していたものであるが、最近の土砂降り雨は、時と所を構わず降ってくる。夕立ならぬ腹立ちである。
しかも、過日のアイボリーフォーラムで宮本博司氏が指摘されたように、舗装された道路・地面と川の側壁は、ほとんど“水入りの待った”を許さない。豊中・上野地区でのまちづくりでは、水を一時的に地中に溜める装置を組み込んだ防災のまちづくりに取り組んできている。東京は、墨田区で取り組んでいる「路地尊」(ろじそん)という試みがある。下町での長屋の前やポケットパークに存する心和む安心・安全のささやかな“まちづくり”であるが、当初は防災用具等を収納するストリートファニチュア(道路上の装置)として考案され、第2号から雨水利用が導入され、草花への水やりや子どもの遊び場として、また、災害時の水源として地域で活用されていることでも有名である。路地尊は、近隣の住宅の屋根に降った雨を集水して地下のタンクに溜めている。雨水には消毒用の塩素が入っていないので野菜や草花を育てる水として、又金魚等の飼育用にも役立っている。最近では、その後の塀に「会古路地(えころじ)」なるダジャレが書かれているとか。為(溜め)になるダジャレである。
現在、首位を走り始めたプロ野球ソフトバンクの礎を築いた前監督・王貞治が、現役時代、前人未到の868号のホームランを打ち、世界の王となったが、そのバッティングの秘訣は、投球を引き付け呼び込んで打つ、いかに“溜め”の時間を持つかであると語っていたことがあるが、あの弓を絞って矢を射るような溜めの後、鋭くスタンドに打ち込んだホームランは巨人ファンならずとも、堪らなかったものである。溜めになるのか、堪らんのか、どっちやねん!と言われそうであるが、お粗末な「溜め」の一席である。
(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.17に掲載)
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