【まちなかの散歩:127】自画像としての都市(2019年3月)
かつて、豊中のまちづくり活動を共にし、その後、コンサルタント会社で学んで専門家として活躍し、現在、ニューヨーク、ブルックリンに居を構えている友人から届いたメールを紹介したい。
「大阪も寒暖の差が激しいようですが、お変わりなくお過ごしでいらっしゃいますか。
年賀状にお書き添えくださっていた大坂なおみさんのこと。タイミングよく全豪で優勝し、こちらの日本人の間でも全米オープン優勝の時と同様、とても盛り上がっています。世界的に活躍する、自然体のなおみさんの姿はNYで暮らす日系の子どもたちにとって素晴らしいロールモデルで、憧れの的といって良いかと思います。アメリカ人らしいアグレッシブさと、日本人らしい謙虚さ、可愛らしさを併せ持つ、いわゆる「ええとこ取り」で、とても魅力的な好ましい人として見られています。日本で色々言われるような、彼女の日本語力とか、外見については全然話題になってません。(むしろ、アメリカの方がずっと長いのに日本語が理解できているのは素晴らしいです。)
日本国籍を持ち、ご本人も日本人としてのアイデンティティを自覚していますし、言葉は英語が強くても、彼女の仕草や話し方、ものの考え方は日本人ぽいなと思います。アメリカ人は、こんな素晴らしい選手なのでアメリカ人にカテゴライズしたがっていますけれど。NYにいる日系の人は、白人、黒人、アジア人、アラブ人等々、いろんなハーフの人がいますし、両親日本人で外見はまるっきり日本人でもほぼ英語だけで話す子、その逆で見た目は非日本人でも日本語を自由自在に操る子もいます。
なので、これだけ活躍してもなお、外見や日本語力をまだ言っている日本のマスコミについては私個人としては、正直うんざりというか、そんなことより彼女のテニスについてもっと勉強してほしいし、偉業を評価してほしいと思います。これからも勝ち続けますよ、きっと!」
さて、そのアメリカ議会で「一般教書」を演説してからも辛辣な批判が鳴り止まないトランプ大統領への評価であるが、あえて“悪魔の弁護人”を買って出ると、選挙前に掲げた「選挙公約通りに政策を実行している」解り易い政治家であり、ある意味誠実な政治家であろう。
そんなことを考えながら、3月だから年度末の区切りをというような齢でもないが、本の整理をしていて『自画像としての都市』(井尻千男著)のタイトルが私を招くので手に取る。
「都市は、そこに住む人々の自画像である。長い時間をかけた集団的自画像といってもいい、そう思いつめたうえで、その『自画像としての都市』を論ずるのでなければ、いつまでたっても他人事である。美しいといっても他人事、醜いといっても他人事。だが、いったん都市を自画像だと思い定めてみると、美しいにつけ、何故にそうなったのかを我が事として問い、我が事としてこたえねばならない。いま、われわれにとって必要なのは、そういう自問自答なのである。・・・・・・政治が悪いの行政が悪いのといったとて、日本人以外に責任を転嫁するところはないのである。」
アクア文化ホールで開催された豊中市を舞台とした「『森友事件』を語る会」の会場には立錐の余地もなく市民が集まり、登壇者の発言に拍手賛同していたとか。メディア・政治・行政の現状について問題をあやふやにしない姿勢が改めて問われている。
人種問題、まちづくりの混迷、政治事件・・・我々は、被害者ではなく加害者ではないのか。目前に迫った選挙には、地域社会を自分のこととしてとらえ、誠実に実行してくれる政治家を選びたいものである。
※井尻千男氏(コラムニスト、1938〜2015年)
※井尻千男著「自画像としての都市」(1994年東洋経済新報社刊)
(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.226に掲載)
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