【まちなかの散歩:87】みんな霧の中(2015年11月)

 TPP(環太平洋経済連携協定)が「大筋」で「合意」とマスコミが報じる。だが、「大筋」がどこまでで、何が「合意」か解らない。当事者である国民が内容を知らされない「秘密交渉」で進め、締結後なお4年間も秘密とする協定を「締結する」ため国会審議をするという。実は時間的猶予があるというのに、「大筋」「合意」を殊更に宣伝するだけの政府。安保法制の時と同じように、マスコミは政府発表の「大筋」を明らかにしてくれない。「日本に輸入される水産品にかかる関税が、“最終的”に“ほとんど”撤廃されることが分かった。輸入品の割合が多い水産品もあり、消費者は値下がりを期待できそうだ。水産庁が16日、都道府県の水産行政担当者向けの説明会で明らかにした」と政府発表の情報だけを流し続ける。“政府とマスコミのタッグマッチ”のツケは、ここでも国民が払うのだ。
 安保法制では、ホルムズ海峡の危険が石油の輸入を危うくして国民生活に影響が著しいから、我が国の安全保障のため自衛隊出動が必要だと、政府は当初主張した(後に撤回)。ではTPPで早晩、食糧自給率が下がる事態は、我が国が食糧輸出国に供給を拒否された時の安全保障に支障はないのか?戦後、白米は頭が悪くなると宣伝し、パン食化のため小麦を買わせた政策があった。折角、資源不足の日本が知恵によって克服して「近大マグロ」等で自給率が上がると喜んだものを、またも自給率が下がり続けるのか。いわんや、薬漬けの食物の“食の安全”をないがしろにして、「農産物5品目の関税撤廃を対象外とする」という約束も反故にしたのに、「重要案件がない」と国会は開催されない。安保法制とTPPへの国民の監視の目をそらそうとしているのか。なんという国家なのか?
 TPPでは、関税よりも国民生活に大きな影響がある制度の崩壊が危惧される。保険診療と自由診療の「混合診療」制度への影響で、世界に誇る日本の国民皆保険制度が崩壊する『国内改革』が行われるという。ISDS条項が導入され、非関税障壁の撤廃も進められていく。例えば米国企業が投資相手国の規制により損失を被った場合、世界銀行の傘下機関に提訴して賠償を求めることができる。ISDS条項による決定は、相手国の国内法より優先され、日本の国民皆保険や薬価決定のプロセスが自由な市場競争を阻害していると認定されれば、莫大な賠償金の支払いか、国の制度が覆される危険性がある。この国の政治は、安保法制にしろTPPにしろ、主権者である国民が「内容が良く解らない」と声をあげても、平然と思い通りに進めていくことができるようになってきている。
 11月22日には、この大阪で府知事・大阪市長のダブル選挙がある。「住民投票に勝たせてくれれば『大阪都構想』の中身を明らかにする」から私に任せろと、大阪市民を霧の中に置いて戦った敗軍の将が「再復活」して、さらに時間と税金を費消する出発日になるのか。心したいものである。

(『豊中駅前まちづくりニュース』Vol.162に掲載)


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