【隠居の繰り言:4】−言葉の綾で、風が吹けば・・??−大阪都構想③(2020年10月)

「豊中まちづくり研究所」の支援者である都市政策研究者の隠居による新コラム。2020年9月から連載スタート。

−言葉の綾で、風が吹けば・・??−大阪都構想③

 大阪都構想では、「広域行政を一元化して二重行政を廃し、住民に近い行政を実現する」という。だが、マスコミに踊る「行政」とか「近い」とかいう言葉は、市民にある種の錯覚を起こさせているのではないだろうか。
 広域行政、二重行政についてだが、都構想で二重行政だとする広域行政とは、「大規模行政投資」を指している。法的な「権限」が府と市に重複して存するという問題ではない。制度としてみれば、特別区になっても、特別区立第二、第三のWTCビルなどの大規模投資は可能だ。都制になれば “二重行政が永久にやれなくなる”ということは、「特別区の財政がコテンパンに貧乏だから大きな仕事は出来ない」という意味だ。
 府と市の重複投資を避けることは必要だ。だが、「自治体間の政策調整」という課題と「政令都市を解体すること」とは、いかに府市の仲が悪かろうとも、イコールではない。
「「大規模投資」は府を中心に行いたい」と言えば、大阪市を解体する必要があるとまで思う大阪市民は少ないのではないか。広域“行政”、二重“行政”という“行政”という“言葉の響き”は、市民に、制度改革が必要な行政改革と錯覚させ、投資効率の問題を自治体制度の問題だとすり替える印象操作になっている。
 投資効率と住民(団体)自治を図る物差しは異なる要素を持つ。投資効率のみの尺度で自治体制度が定められるのではない。

「広域行政一元化と経済発展」についても誇大だ。府の一元投資に移行すれば、大阪経済が大成長するのだろうか。
だが、「地域経済成長」と「都市制度」には直接の因果関係はない。全国20の政令指定都市で都制を施行すれば、どの地域でも経済成長があり、民間移管が進めば住民サービスが向上するのか。「制度」が原因ならば、イエスだ。だが、そんな簡単なことではないから、全国自治体の首長、議会は皆、苦心惨憺しているのだ。
 東京都の経済力は、政治との距離、太平洋貿易、などで首都集中が最も資本効率が高いと資本が判断した結果もたらされたものだ。経済構造が変わらない限り、都制で太った府財政が集中投資をしたところで、大阪の大発展はない。
 また、府による投資が成功するとは限らない。コスモポリスなど府の施策、大規模投資での失敗例には事欠かない。
 成長戦略について、「こんなことをしたいが、大阪市があるから出来ない」という具体的な話も聞かない。IRと万博にしても、大阪市の存在は邪魔になっていない。

「住民に近い」という言葉も、制度を正しく示していない。
 特別区議会の議員定数は住民数比でみて大幅に縮小される。議員の数が少なければ少ない方が良いという宣伝には、原点に立ち返って考えなければならない。
 あまり広報されていない「一部事務組合の利用」も問題だ。
 協定書による一部事務組合は、4特別区の事務のうち介護保険事業、情報システムの管理など151の事務を処理する巨大な組織になる。これは、現大阪市の区域の一体性や財政効率のためとされる。
 だが、「一部事務組合が成立すると、共同処理とされた事務は、関係地方公共団体の権能から除外され、一部事務組合に引き継がれる」(総務省HP)。一部事務組合の理事者、議員は構成特別区の理事者、議会から選出される。4区の利害対立が生じても脱退はままならない。
つまり、151の事務はそれぞれの特別区では独自に決定、実施できなくなる。住民の直接コントロール下から外れてしまうのだ。
 これが、住民に「近い」制度づくりだろうか。

 繰り返しだが、都構想には、冷静に検討すべき点が多い。
・広域行政一元化は都制でなければならないのか?
・都制となれば二重行政が解消し、二度と後戻りはないとは?
・広域行政の一元化は経済成長に直結するのか?
・経済成長があったとしても、住民サービス向上を必ず保証するものか?
・特別区制は身近な行政の拡充となるのか
・民間移管が大阪の自立になるのか?何を移管するのか。自立する大阪、とは?
など。
都構想推進論では、これら不確定・不正確な要素をあたかも周知の確定事実であるかのような前提を置き、「二重行政の解消が玉突きで住民に生活の向上をもたらす」という論理を構成している。
『「広域行政を府に一元化」し「二重行政を解消」すれば、「成長」があり、「税収は確保され」、「行政サービスが拡充」される。また、「基礎自治行政は充実」され「優しい大阪」になり、「行政の民間移管」が進んで「大阪は自立」し、「世界と渡り合える都市」になる。これは証明されている』と。(WEB 大阪維新の会、「なんで!?都構想が必要なん?」から作成)
 隠居の眼には、怪しげな要素を積み上げ、バラ色の未来を描いたもので、言葉の綾の錯覚を利用した、「風が吹けば桶屋が儲かる論」、にしか映らないのだが。


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