【隠居の繰り言:3】−言うべきことを堂々と言う−ふるさと納税制度(2020年9月)
「豊中まちづくり研究所」の支援者である都市政策研究者の隠居による新コラム。2020年9月から連載スタート。
−言うべきことを堂々と言う−ふるさと納税制度
自民党総裁選では、ふるさと納税制度が実績のアピール材料に使われていた。
だが、この制度は地方振興の目玉だと自慢できるものなのか。
改めて言うまでもないが、ふるさと納税制度は、寄付額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税から全額控除され、寄付先の自治体からは返礼品があるので、寄付者が寄付すればするほど儲かる仕組みとなっている。寄付獲得のための返礼品競争は激しく、返礼品紹介のウェブサイトが花盛りだ。行き過ぎだとして、昨年、返礼品の制限など一部改正を余儀なくされ、この制度改正では、泉佐野市と国が最高裁まで争った。
この制度は結果的に、地方自治体を“振興ではなく疲弊させる”、ものだと思う。
次のような問題が指摘されている。
- 寄付者の居住自治体では、ただでさえ不足している税収をさらに減少させる。
- 返礼品に使われる金額は、税から支払われるので、結局地方税総額として減収をもたらす。
- 納税は返礼品に替わるものとしたことで、健全な納税者意識を失わせる。
- 高額所得者はより得をし、他方低額所得者にはほとんど恩恵はなく、税の再分配機能を破壊する。
- 泉佐野市にみる豪華な返礼品競争を生み、寄付を受ける側の自治体もモラル崩壊を起こす。
さらに、その後の泉佐野市と国の紛争では、
- 総務省は、泉佐野市の制度改正前の事実をもって改正後の制度適用団体から除外するという、法の概念に反してまでも地方支配を行う態度をとった。
- 更に総務省は、国地方係争処理委員会の勧告を軽視(無視)するという、地方分権(自治)を守る制度を軽視した。
- 訴訟では、大阪高裁の判決は、忖度判決ではないかとも思えるようなものだった。
など、地方自治制度について多くの問題を生んでいる。
ふるさと納税制度は、過激な返礼金競争だけが問題なのではなく、ただでさえ困窮している地方財政をより困窮をさせ、国民、自治体のモラル崩壊を起こすもので、税の仕組みとして根本的な欠陥がある。
地方自治体間の税収のアンバランスを是正するというが、そもそも税収の少ない地域の間の醜い奪い合いでしかない。
生まれ育った故郷に思いをというが、返礼品競争の中でそんなものは吹っ飛ぶ。 “ふるさと”ではなく、“儲かるところ”に“寄付”は群がる。
返礼品は地域産品でというが、そのようなものが無い地域が寄付を切望する地域なのだ。
高額所得者が増々富み、低所得者は切り捨てられ、自治体に住む者のための税金という意識は破壊される。
そもそも見返り期待の“寄付”は、寄付の精神としていかがなものか。
地方財政強化はもっと別の形で、根本的になされなければならない。
だが、最近のマスコミでは、根本問題の指摘はほとんど無い。自治体の自らの努力によって収入を増やせるという幻想を振りまくことで、現地方財政制度そのものの欠陥から意識を逸らそういう忖度としか思えない。
そんな中で、正面から制度の根本問題を指摘している記事を見た。
AERAdot. の9月10日付、『菅官房長官に意見して“左遷”された元総務官僚が実名告発「役人を押さえつけることがリーダーシップと思っている」』。
平嶋彰英立教大学特任教授のインタビュー記事だ。
同氏は、2014年、自治税務局長(当時)だったが、菅官房長官に対して直接、制度上の問題点を指摘したところ、事務次官候補の一人だったにもかかわらず省外に異動となり、ふるさと納税に反対したことによる左遷人事として霞が関の官僚は震え上がったと言われる。
一部引用すると、氏は、菅氏が制度に関与したことを述べたうえで、
『「(総務省では)賛成する人なんていません。総務省の役人どころか、少しでも税制度のことを知っている人なら「こんな制度はおかしい」と思っています。自民党でも、制度の変更を頑張っていたのは菅さんぐらいではないでしょうか。』
『ふるさと納税をして返礼品を得ている人を批判しているわけではありません。ふるさと納税は、やった方が経済的合理性があるのですから、(中略)。問題は、こういう制度をつくってしまったこと。』
『返礼品を紹介するウェブサイトは、ふるさと納税の金額から15%ほどの手数料を得ていると報道されています。近年ではテレビなどでウェブサイトの広告が出ていますが、これも原資は地方自治体の税収になるはずだった税金です。』
“すり替えられた地方の時代”が進行している。政権に反対する意見を持つ官僚は、ことの是非にかかわらず追放するということも言われている。言うべきことを堂々と述べる人たちに敬意。
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