【若葉マークの車いす生活:35】猫ロボットに思う!(2022年6月)
猫ロボット! 人には様々な思い出が!
食堂のTV横に、少し前から黒白の猫の縫いぐるみが寝そべっている。尻尾を除いて40cm位だろうか。なかなか可愛い。この縫いぐるみ、頭を少し振って、≪ミャー≫と鳴く(アーとかニーと聞こえるときもあるが)。
半月程前だ。夕食時、食堂でアーという音が聞こえる。何だろうと見ると、職員が「ご飯を食べるから、こちらに置いておきましょうね。」と、ある入居者の膝から取り上げて棚に置いた。猫ロボットだ。家族から届けられたものだろう。食後、猫ロボットはその方と共に部屋に帰っていった。
92歳の方が、懐かしそうに話し出す。
「私、昔家で猫を飼ってましたんや。その子、なかなか愛想が良くて、近所の人に可愛がられてましたんや。それが、長生きしでね。人間で言うたら百歳ぐらいになって。ずっと座布団に寝てるようになって、鳴くのも、ニャーとよう鳴かんで、フニャーと鳴きますんや。フニャーでっせ。それでも、近所の人には可愛がられてね。」
別の日、話は続く。
「私、猫飼ってましたんや。それが、ある時5匹も仔を産んで。そしたら、ある人が5匹とも欲しい、と言うんで、差し上げましたんや。それからずいぶん経っても、その人が仔猫の話を全然せんので、どうしてるって聞いたら、何と、“全部捨てた”と言いますんや。どうして、って聞いたら。あんなどっさり居ても、あんたはよう捨てへんやろうから、代わりに私が捨ててあげましたんや。袋にまとめて入れて、海に放ってきた。って。」
「びっくりしましたわ。ようそんな酷いことするなあ。全く、鬼や。近所の人やから、もう何も言わんかったけど。」
目つきが厳しくなっていた
猫ロボットが、懐かしいこと、つらいこと、交錯する様々な思い出を蘇らせる。齢を重ねるということは、様々な思い、経験が積み重なること。
老人ホームというのは、そうした思い出の集積場所なのだ。
この猫ロボット、いつからか部屋には戻らず、食堂でずっと鎮座ましましている。昨日は、別の人が可愛がっていた。
人生っていうやつは、複雑で、難しいものですね!
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